ソニーのデザインの源流

取材の帰り道、銀座のソニービルに立ち寄った。8階のオーパスで、ソニーのデザインの歴史を振り返る展示会をしているという話を聞いたからだ。

結論から先にいえば、展示会場は違和感の連続で「何が」言いたいのか、いや「何を」伝えようとしているのか、さっぱり分からなかった。むしろ最後には、不愉快な気持ちになってしまっていた。

一番違和感を覚えたのは、展示会場の入り口に社長の平井一夫さんの大きな写真とメッセージが飾ってあったことだ。ソニーの社長だから、そういうことなのかなとも思うが、ソニーのデザインの本質を披露するのが狙いなら、井深大盛田昭夫の2人の創業者、初代デザイン室長を務めた大賀さん3人の写真で迎えて欲しかったなと個人的には思った。

だいたい、平井さんはエンタメの人であって、ソニーの本流・AV事業(製品)とは無関係だし、ハードに関心のない人に入り口で迎えられてもなあと思った。

さらに会場内の展示品にも、クビを傾げることが多かった。
AIBOは初代が展示されていないし、プレイステーションもプレステ4だった。どちらも初代のデザインが斬新で画期的だったから商品が差別化され、それによってヒット商品になったように記憶している。ソニーのデザインがヒット商品になるにさいし、重要な役割を果たしたのだ。そしてそれらは、何よりも私たちの胸をときめかせてくれたものだった。

同じことが、放送業務要機器にも言えた。
シネマ用のデジタルビデオカメラとして、4K対応のカムコーダーが展示されていたが、「CineAlta」のロゴ(ブランド)の説明もなければ、展示製品の名称にも付け加えられてういなかった。

フィルムからビデオ(デジタル撮影)への切り替えを目指していた映画監督のルーカス及びルーカスフィルムソニー(厚木テクノロジーセンター、放送業務要機器、いわゆるプロ用の製品開発)に協力を求め、両者のコラボによって、「スターウォーズ エピソード2」は世界で初めて全編フルデジタルでの撮影に成功した映画となった。

そのさい、ソニー厚木が開発したシネマ用のフルHD対応のカムコーダー「CineAlta」は、映画の、映画制作の歴史を塗り替える画期的な製品であった。フィルムカメラと違って、どうしても頭でっかちになりがちなシネマ用のカムコーダーを、使い易く、しかも格好良く見せたデザインは、本当に素晴らしかった。

当時、名機「CineAlta」と一緒に写ったルーカスの写真がいたるところで使われていたが、日本人として本当に誇らしかったことを覚えている。ルーカスが「スターウォーズ エピソード2」のエンドロールで「Thanks to Sony Atsugi(ソニー厚木)」と感謝の念を表したことも、SONYの映画の世界でのプレゼンスをかなり高めたと思う。

この歴史に名を残す名機ではなく、いまの4K対応のカムコーダーを展示することにどんな意味があるのか、私には分からなかった。

また初代のデジカメ、サイバーショットの実物がなく、写真で代用されていたのも疑問だった。初代は私でも持っているというのに、である。このデザインもなかなかユニークで、いま発売しても斬新なデザインとして通用すると思う。

当初の意図は別にして、いつからか知らないが、社長の平井さんにヨイショする企画になってしまっている気がした。初代ではなくプレステ4を展示したのは、その象徴だろう。最近のソニーは、こうした平井さんに対するゴマすりが露骨になったというか、幅を利かすようになったようで悲しい。