ソニーの経営方針説明会@港南本社

 2月18日に開かれたソニーの経営方針説明会に出席した。
 いずれ詳細は、どこかの媒体で書くことになると思うので、ここでは当日の印象や質疑応答等で感じたことをメモ程度に記したい。

 ソニー本社(港南)の二階会場で、私は中央の列の真ん中ほどの席に陣取りました。
私の隣の席も空いていたが、前方にもちらほら空席があり、後方ではかなりの空席が目立った。テレビ局のカメラも以前と比べると少なかった。

 1994年の秋からソニーの取材を始めたが、これほどまでに閑散とした経営説明会は初めてのことだった。良い事でも悪いことでも、とにかく「SONY」という冠がつく記事が求められた頃とは想像もつかないほどの変わりようだ。ソニーのプレゼンスがとうとうここまで落ちてきたのか、と実感させられ。

 もちろん、ソニーの業績が振るわない、かつてのような画期的な製品を市場に送り出せていないことなどといったマイナス要因もあるだろうが、それ以上に現在のソニーのマネジメント、広報の姿勢に問題があるのではと思った。

 今回の経営方針説明会に限らず、平井さんが社長になってからとくに目立つようになったのは「時間制」である。1時間の記者発表のうち40分を登壇者の説明にあて、残り20分を質疑応答の時間に決め、とにかくその時間内に終わらせることに終始していることがミエミエだからです。最初から時間が限られているから、記者の質問は2問しますと宣言してから始めたが、そこには従来あった臨機応援という考えはない。

 今回の経営方針説明会、それも第一次中期計画の失敗を受けて、次の中期計画を発表するような大事な説明会の場合は、時間にとらわれる杓子定規なことはしなくてもいいのではと思った。かつて大賀さんの時代、出井さんの社長時代では、とことん質問に応じます、受けて立ちますといった迫力があったし、「説明会」と言いながら記者とのディスカッションに近いこともあった。だからだろうが、説明会は活況になるし、出席していてもいろんな質問にマネジメントがどう答えるのか、聞くだけでも楽しかった。

 ところが、平井さんは登壇すると両端に用意されたプロンプターに目をやりながら上手に読み上げる。ときにジェスチャーを交えながら、言葉を強調したり、まるでタレントみたいだ。少なくとも普通の記者は、ソニーのCEOにタレント性を求めてはいない。「生の声」と経営問題に真摯に向き合う姿勢を求めている。

 要するに、ソニーのプレゼンスが下がったこともあるが、経営方針説明会自体が形骸化し、内容ないお喋りに終始するようになったため魅力を失ったのではないかと思った。質疑応答でも指名する記者は、いつもだいたい決まっており、彼ら+アルファで終わる。そんなとき、無難に終わりたいというマネジメントと広報のあからさまな姿勢を感じる。それから最近は、外国人のプレスを指名することが少なくなったような気がする。今回は指名しなかったが、その理由は分からない。

 新中期計画でエレキ事業をすべて分社化していく方針を明らかにしたが、その理由を平井さんは「自立して経営する」ことの大切さ、厳しい環境の中で「危機感を持って経営」することで「本社に頼ることなく、自分の考えで責任を持って経営する、(結果に対する)説明責任を果たしてもらう」と力説した。

 それに対し、質疑応答で週刊ダイヤモンドの記者が分社化とそれに伴う経営責任、説明責任を平井さんが求めるなら「中期計画の未達成、上場以来初めての無配の責任をどうとられるつもりですか」と突っ込んだ。

 平井さんは「(中計で)できたこと、できなかったことはある。ただ足下は会社としてよい方向に向かっていると思う。ここまで3年間やってきて、会社がよい方向に向かいつつある中で私の一番の責任は、改革をやり切った後で、会社を成長のフレーズに持っていくことだと考えている」と、ダイヤモンドの記者の質問に正面から答えることなく、問題をすり替えることで逃げた。これでは、部下には経営責任を求めるが、自分は責任はとらないと明言したも同然である。

 こんなトップに部下は付いていくのかなあと正直思った。
 自己保身の塊の側近と役員は見て見ぬ振りをして、「我が世の春」を謳歌したいのだろうが、こんなことがいつまでも続くとは思えない。

 経営方針説明会が終わった会場を見渡していると、ふとハワード・ストリンガーの時代が懐かしくなった。CEOとしての彼を評価はしないが、ソニーの一員としての彼は、なかなか憎めない経営幹部だった。いまでも好感を持っている。ソニーのCEOになる前から何度もインタビューしたり、CEO就任後はオフレコ懇を含めよく話を聞いたこともそんな思いにさせているのかも知れない。ただ社長の平井さん、今度副社長に昇任したCFOの吉田さんの二人に欠けるものを、ハワードは持っていると思う。

 それは、創業者をリスペクトし、ソニー製品を愛していることだ。この二つを持っているから、意見や考えが違っても何度も会ったし、会いたいと思ったのだ。

 あるとき、ハワードは私にこう言った。
「あなたと私は、ほとんど意見や考えが合うことはない。まったく違っていると言ってもいい。それでも私は、意見や考えがまったく違うあなたと会うことの大切さは分かっているつもりだ」

 このような度量は平井さんにはない。