2013年6月のソニーの株主総会

 ソニー株主総会が6月20日午前10時から新高輪プリンスホテル(旧名、新名失念)で行われた。会場出席者数は約1万人(昨年の9300人よりも多い)。郵送やインターネットでの参加吸うは18万8000人だった。

 メディアに用意された別室の「モニター室」で株主総会を見学した。
 経営方針説明会のような社長の平井一夫氏のパフォーマンスは、さすがになかったものの、最終黒字を達成したという「実績」を誇示する姿勢は相変わらずだった(質疑応答で一般株主から「資産売却での黒字化ではなく、技術(本業)で利益を出して下さい」と窘められていたのは印象的だった)。

 CFOの加藤氏の説明も平井氏同様、着実な「改革の成果(最終損益の黒字化、エレキの赤字の減少など)」を強調するだけで、その内容まで踏み込まない。ひと言で言えば、平井氏のリーダーシップを発揮したという自慢話とソニーの改革は進んでいる自画自賛に終始したと言っていいだろう。経営方針説明会の後で、ある評論家が「原稿が上手に読めるCEOですね」と平井社長のスピーチを評していたが、株主総会でも同じ印象だった。

 質疑応答に入り、一般株主の質問には井深・盛田からのソニーファンを代表するような「熱いメッセージ」が含まれ、思わず目頭が熱くなった。こうした人たち、SONYを心から愛する一般株主の存在がソニーの成功を支えてきたものなのだなと確信した。私の琴線に触れた質問をいくつか紹介したい。

1)マスコミなどで経営幹部やエンジニアの流出が報道される。「技術のソニー」と呼ばれた会社が技術陣を(社内に)抱えられなかった理由は何か。技術者の流出を止める企てをして欲しい。

2)ソニー精神についてお伺いしたい。井深さん、盛田さんは一般大衆が望む商品、消費者が使いやすいものを苦労して作られた。それが世界初、日本初となるソニーの商品だった。いまやアップルやサムスンが先行しているが、両社に追いつき追い越す意思はあるのか。その根拠を教えて欲しい。それが、ソニーの株価が半値になろうが、30分の1、50分の1になってもソニー株を売らずに持っている理由です。

3)私は「ソニー坊や」の時代からの付き合い(株主)です。ソニーに期待するのは技術力の保持、プロジェクトリーダーとなることです。かつて盛田さんにどんな気持ちで経営に当たられているのか質問したことがあります。そのとき、盛田さんは「ソニーは明日潰れるかも知れないという気持ちで、危機感を持って経営している」と言われました。いまの経営陣はどうなのか。同じような気持ちでいるのか。

4)「技術のソニー」をどう守っていくのか。今後は資産の売却で黒字化するのではなく、技術、本業で利益を出して欲しい。

 正直なところ、一般株主のほうが社長の平井氏を始めとする経営陣、社外取締役ら「エライ」人たちよりもSONY製品を愛し、ソニーを心から心配し応援していると思った。逆に言えば、彼らがソニーに愛想を尽かしたとき、ソニーは倒産するしかないのだろうなと思った。「親の心、子不知」の典型だ。

 経営からの最大のメッセージは人事、とはよく言われることだ。少なくとも平井政権の人事を見る限り、何をしたいのか、何をするべきなのか、そのやる気のなさが伝わってくる。例えば、ティム・シャーフ氏を今回、新たに社外取締役(候補)に選任しているが、彼はもともと個人情報漏洩問題の時のセキュリティの最高最高責任者だったにもかかわらず、公の場所に姿を現すことなくその下位の責任者である日本人役員の長谷島氏に責任を押しつけて「逃亡」した人物である。責任を放棄した形でソニーを去った人間にソニーの経営を「監督」する立場の役職に推薦する、まったく理解不能な平井氏の人事である。

 適材適所と信賞必罰は人事の要諦だが、ティム・シャーフ氏の人事を見る限り、平井ソニーにはもはや影も形もなくなったように見える。1兆5000億円の最終赤字を抱えるパナソニックの津賀社長のほうが、最終黒字を達成した平井社長よりも市場やメディアの評価がはるかに高い理由は、おそらく平井氏には一生かかっても理解できないだろう。

 パナソニックやシャープ同様、ソニーの再生も「茨の道」であることには代わりはない。むしろ「再生」への処方箋は、米国ファンド「サード・ポイント」のほうが持っているのではないかさえ、私には思える。レターを読む限り、彼らのほうがソニーの業務内容、経営をよく勉強しており、彼らの提案はまったく理にかなっている。彼らなりの処方箋を提示するだけの力があることは、率直に認めるべきだと思う。現実を直視しない限り、問題解決への道も開かれない。

 ソニー株主総会は、奇しくもソニーの本質的な問題を露呈することになったが、それは本当に問題解決を望むなら、とてもいいことだと思った。問題は受け皿がないことだけだけども……。