ラスベガス

ラスベガスを舞台にしたCSI(科学捜査班)をHuluで視聴していると、いろんなことを思い出す。
初めてラスベガスを訪れたのは、いまは廃止になった世界最大のPCの見本市「コムデックス」の取材だった。当時、ソニーは家電メーカーの中でデジタルネットワークへの挑戦、企業のIT化に邁進していた。ソニーのブースの一角に商品はなく、模型とプレゼン資料しかない小さなコーナーがあった。そこに、アップルのジョブズマイクロソフトゲイツが足を運んでいた。

いまはネットワークといえば、オンラインしか注目を浴びないが、当時のソニーはネットワークには「オフライン」もあることを示した異色の企業だった。そう、世界で初めて「メモリースティック」が展示されていたのだ。4メガと8メガという記憶容量としてはまことに貧弱だったものの、その発想はネットワークの本質をついた画期的なものだった。メモリーステックは、いわゆるブリッジメディアとしての役割を期待されたのだ。

しかしこの本質を理解した人は、ソニーの中でもきわめて少数派だった。ソニー製品にすら、メモリスティックの搭載を拒否する事業部が続出した。最後まで抵抗したのは、テレビ事業部だった。ハンディカムやサイバーショットで撮影し、メモリースティックに録画しても直接、ベガやブラビアで再生することはできなかった。そのとき、ソニーの言い分は「DVDレコーダーには搭載されています」だった。つまり、ソニーのDVDレコーダーをテレビに繋いで「利用してください」というわけだ。

そんな調子だから、パナソニックのSDカードに負けてしまうのだと思った。ソニーは他社に先駆けた優れた商品をいくつも開発し市場に送り出すものの、本当にビジネスが下手だった。使い手、消費者の使い勝手などをほとんど考慮しないからだ。また、それでもよし、とする経営幹部が多すぎた。

コムデックスが廃止され、同じラスベガスで開催される、世界最大の家電見本市「CES」に多くの電機メーカーは出品するようになった。世界的な放送・業務用機器の見本市「NAB」も開催地はラスベガスである。

私のCESとNAB通いはしばらく続いたが、フリーランスでは毎年行くことは叶わず、2〜3年おきとなり、今年はとうとうCESもNABも行かなかった。なぜなら、見るべき技術がなくなったからだ。出品されるのは、枯れた技術(商品化されたもの)ばかりで未来が見えない。

ラスベガスには仕事でしか行くことはなかった。いま振り返ると、無理してでもグランドキャニオンには行くべきだったと思う。ホテルとコンベンションセンターの往復やメーカーのプレスコンファレンスにほとんどの時間は費やされたからだ。だから、ラスベガスは私にとって、未来の技術を見に行く場所だった。

CSIを視聴していると、見慣れた街の風景とこんな魅力的な場所もあったのだと新しい風景が入り交じり、複雑な気持ちになる。それにしてもラスベガスは、不思議な魅力を持った街である。