「週刊東洋経済」の独占インタビューはフェアか

週刊東洋経済」の鴻海精密工業トップ、テリー・ゴウ氏の独占インタビュー記事を読む。
タイトルが「シャープとのすべてを語ろう」で、中吊り広告は「シャープに騙された」とあったから、かなり期待して読んだ。そして見事に期待外れの記事だった。

いつから東洋経済は「スペース・ブローカー」になったのかと思うほど、相手の言い分をただただ垂れ流しただけという印象を受けた。「騙した」「騙された」はビジネス上の駆け引きだったりするわけで、「詐欺」でない限り、よくある話である。シャープ(及びトップ)の態度が曖昧であったり、取り引き先企業に不誠実であったりするのは、いま始まったことではない。そんなことは百も承知で鴻海精密工業の辣腕経営者、ゴウ氏は付き合ってきたはずだ。

その世界的な企業のトップが「騙された」とメディアで叫ぶ、その狙いと背景を分析するのが、メディアの仕事ではないか。ゴウ氏が東洋経済の独占インタビューを受けた背景、思惑も踏まえたインタビューであって欲しかった。とくにインタビュー後記は見苦しかった、というかゴウ氏のほうが一枚も二枚も上手だなと改めて思わされた。

とくに気になったのは「12年8月下旬に来日した際は、堺工場で予定していた会見を突然キャンセルしました」と質問しているが、私が知る限り、堺工場で予定された記者会見などなかった(当時、シャープにも確認している)。それを「事実」としてインタビューしている点に違和感を覚えたし、その質問に対するゴウ氏の回答はもっと笑えた。

「会見をキャンセルしたのは、シャープが8月3日に回答した条件がまだ実現されていなかったからです。ですから私は話したくなかったのです」

堺工場の見学前まで、ゴウ氏は終始機嫌が良かった。24時間密着取材をしていたテレビ局の取材班や居合わせた記者に対し、突如、見学後に話をすると言い出したのは鴻海精密工業側である。だから、みんな待っていたのだ。このことは、シャープはまったく知らなかった。

ところが、堺工場の見学が終わると、一転不機嫌になったゴウ氏は姿を見せることはなく、立ち去ったのだ。この不機嫌になった理由を、東洋経済のインタビューで明らかにして欲しかったというか、それを期待して記事を読んだのだ。

さらに言うなら、その足でゴウ氏は東京のソニー本社を訪ねている。その意図はどこにあるのか。シャープを見限ったというサインなのか。そこも突っ込んで聞いて欲しかった。十分な予備取材も意図もなく、独占インタビューそのものを特ダネと喜び、ゴウ氏に乗せられたとしか思えなかった。

私もまた多くの読者同様、鴻海精密工業とシャープの提携がうまくいかなかった本当の原因を知りたかった。少なくとも東洋経済の記事は、私の思いには応えてくれていなかった。最近の東洋経済の記事には失望させられることが多い。